東京高等裁判所 昭和40年(ネ)2194号 判決
一、別紙目録記載の(一)、(五)、(七)の土地について昭和二三年一月二二日の受付で同日付売買を原因として訴外合名会社二樹園から控訴人の三男の水野善雄への所有権移転登記がされ、同(二)、(四)の各建物について昭和二七年中に控訴人の長女の水野喜美代のため、(三)、(六)の各建物について同年中に水野善雄のためそれぞれ所有権保存登記がされたことは当事者間に争がない。
二、控訴人は、右土地は控訴人が訴外会社から買受け、建物はいずれも控訴人がその費用で建築したもので、名義上は前記訴外人の所有としたが、実質上の所有権は控訴人に属する、と主張し、成立に争のない乙第四号証、乙第五号証、原審証人井口俊吉、当審証人水野善雄の各証言ならびに当審における控訴本人尋問の結果によると、右土地は控訴人主張のように控訴人が合名会社二樹園から買受け、建物はいずれも控訴人が昭和二七年中にその費用で建築したものであることが認められる。しかし不動産の買主や建物の建築主がこれを子その他の家族の者の所有名義として移転登記を受け、又は保存登記をすることは、世上往々行なわれるところであつて、その趣旨は、たまたまその名義人たるべき者が幼少である等の理由で、一時的に管理、処分の権限を事実上何らかの形で保留しておくということはもとよりありうるとしても、その所有権自体は登記簿上の名義人とした子その他の者に与えたものと解するのが相当であつて、所有権自体をも保留することは財産を隠匿する必要があるような何らか特別の事情がある場合に限ると考えられるのである。しかるに、控訴人が右各不動産の実体上の所有権を保留しながら、登記簿上の名義を善雄や喜美代にしなければならなかつた特別の事情があつたことについては、これを窺うに足る何らの資料もなく、かえつて右にかかげた各証拠によると、善雄は右各土地買受の当時東京工業大学の学生であり、喜美代は右建物が建築された当時薬剤師の資格をもち薬舖する計画を立てており、いずれも近い将来において独立の生活を立てる時期であつたこと、そこで控訴人はこれらの子女に対しその独立の資とするため財産を分け与えるべく、本件各不動産についてそれぞれ前記のとおり善雄、喜美代の所有名義として登記手続をしたことが認められる。のみならず、
(1) 成立に争のない乙第六号証の一によると、善雄と善美代は昭和三〇年一一月二八日訴外遠藤定二を被告として、東京地方裁判所に、(一)、(五)、(七)の土地および(三)、(四)、(六)の建物について、同訴外人のため昭和三〇年一〇月登記された根抵当権設定登記、停止条件付所有権移転請求権保全仮登記、賃借権設定請求権保全仮登記はいずれも母(控訴人)が他人に欺罔されて手交した印章を不正に使用してされたものであり、また母にかかる権限を委任したこともない無効のものであるという理由で、その抹消登記請求権を保全する目的で右抵当権等につき処分禁止の仮処分申請をした事実が認められ、
(2) 成立に争のない甲第六号証によると、善雄は昭和三三年東京地方裁判所に訴外依田朝重、同中央ボーリング株式会社を被告として、(一)の土地の所有権に基いて、依田に対しては同人がその地上に所有する七坪(二三・一四m2)の建物を収去し右土地を明け渡すべく訴求し、訴外会社に対しては同地上に在る建物よりの退去を訴求した事実が認められ、
(3) 成立に争のない乙第二号証、乙第一〇号証、乙第一二号証によると、被控訴人が昭和三三年東京地方裁判所に善雄を被告として(四)、(六)の建物につき、同人との間の売買によりその所有権を取得したことを原因として右建物の明渡を訴求したのに対して、善雄は、別紙第一目録記載の土地、建物がすべて善雄の所有に属すると主張し、その所有権の確認と、被控訴人のために存する所有権移転登記の抹消請求の反訴を提起し、上告審まで争つたがいずれも敗訴した事実が認められ、
(4) 成立に争のない乙第一号証によると、善雄は昭和三六年東京高等裁判所に被控訴人を相手方として、右反訴にかかる登記抹消請求権を被保全権利として、別紙目録記載の土地建物につき処分禁止仮処分を申請して認容されたが、被控訴人よりの異議により昭和三八年九月一六日右仮処分取消の判決がされた事実が認められ、
(5) 成立に争のない乙第五号証によると、控訴人は右(3)の訴訟事件の第一審において証人として尋問された際に、別紙第一目録の土地、建物はすべて善雄の所有であることを認め、これを前提として同人のため有利な証言をしている事実が認められ、
(6) 原審ならびに当審証人水野善雄、当審証人斎藤五郎(第一・二回)の各証言および原審ならびに当審における控訴本人尋問の結果によると、右土地、建物についての被控訴人への本件各所有権移転登記手続は、善雄が自己の事業資金を調達するため、控訴人へは何も相談せず、控訴人の知らぬ間にした事実が認められ、
るのであつて、以上の事実を綜合すれば、本件(一)、(五)、(七)の各土地は控訴人がこれを合名会社二樹園から買受けると同時にその所有権を善雄に移転し、本件(二)、(四)の建物は控訴人がこれを建築すると同時にその所有権を喜美代に移転し、(三)、(六)の建物は同じく控訴人がこれを建築すると同時にその所有権を善雄に移転したと認めるのが相当である。
(小川 松永 川口)